遊牧民族の研究・遊牧民族の社会と文化・内陸アジアの研究・ヘディン博士記念号・ユーラシア学会研究報告3冊/江上波夫・今西錦司・梅棹忠夫

商品説明
1952年と1955年 368ページと219ページと377P 梅棹忠夫ほか 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。

まえがき
われわれのユーラシア學會の研究報告も,これで2冊を出したことになる。 しかし本篇を公けにするに當つて, 責任者として,出版助成金を交付して下さ つた文部省當局ならびに寄稿者諸兄に對し, 深くお詫びしなければならないこ とは、出版の時期がはなはだしく延した點である。 その原因の1つは一部の 原稿の推敲に意外に手間どつたためであるが,これは學術報告の編集者として は,一般の雑誌編集者とちがつて, 無理に急がせるとか,著者自身が不滿足と 感じている原稿でもかまわず載せるとかいうことができない事情にあることを 諒解していただきたいと思う。

前篇を出版した時,その「まえがき」 において, 私は敗戦後大陸における實 態調査が能になったことを嘆じたのであるが,本篇の編集中に事情が變つ てきた事實をここに記しうることは喜びにたえない。まず本會の會員である今 西錦司氏をはじめ,中尾佐助, 川喜田二郎の諸氏がネパール・ヒマラヤを廣範 圍に調査し,また江上氏は西アジャを踏査された。私自身もまたアフガニスタ ンを旅行するの幸運に恵まれた。 さらに聞くところによるとこの種の大陸の實 態調査計畫は他にも進められつつあるということである。 敗戦後永い間, 過去 における實態調査の結果の整理と文献的研究にのみ閉じ籠められていたわれわ れに再び氣運がめぐつてきたのである。 しかし敗戦後10年近い年月をわれわれ は決して無駄に過ごしたとはいえない。 その1つの證據がこの「遊牧民族の社 會と文化」 「遊牧民族の研究」 の2篇の出版であると思う。

中国と蒙古においてその文化及び人種は既に石器時代に明らかに分れて いた。
先ず J. G. Andersson はその國境に沿つて兩者の文化がしばしば接觸混 合し合っていたことを注意した。 江上,水野兩氏も同様な事實を観察し, その雨文化が相互に影響しあつている地域について述べている。そして, P. Teilhard de Chardin と斐文中は中國と蒙古の國境に沿ったせまい地 域において,文化的だけでなく人種學的にもこの事を立證し,中國の農民 は蒙古の大平原や砂漠地帯に侵入して, 中國人の植民地開拓の前哨地を形 成していたとのべている。
筆者は Sven Hedin 探険隊 (1927~1935) にょつて蒐集された内蒙古 の大な考古學的資料を研究した際に,中國文化の要素は内蒙古深く侵入 し、更に外蒙古との境界にまで達していたことを認識した。
米國 Andrews 探険隊 (1922~1930) の今迄の調査豫報によると外蒙古 には中國の要素は認められていない。
筆者は若しかすると中國文化の要素 (詳細は本文中のリスト参照)が蒙 古の比較的内部に形成された中國植民地開拓の前哨地を示唆するものでは ないかという考えを抱いた。 しかしながらこの文化史的見地からの確かな 推論によつて,筆者は全く否定的結果となってしまう。 つまり内蒙古には 農耕の痕跡が認められていないのである。 然し河川の流域や多くのオアシ スは充分に農耕に適するものであつた。 石器時代を通じ, 又その終末期に おいてさえも、土着民は中石器時代的な遊牧的狩獵,漁獵, 食糧採集等 の經濟生活の以上には出なかつた。 蒙古の内部で發見された中國文化の要 素は中國農民の文化遺物としてよりも、別の方面から容易に説明できるの である。 それは國境において物々交換されたものが、 ある方法で北方や辟 地に運ばれ、或いは中國商人によつて交易が行われたかもしれない。 又一 方石器時代の蒙古人が中國北部の農業の盛んな地方に侵入し, 掠奪したも のであつたかもしれないのである。


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